この長谷敏司さんの楽園 戦略拠点32098、わたしの不勉強ゆえ存在すら知らなかったんですけどとんでもない名作でした。ライトノベル史に残さないといけない傑作。
長谷敏司さんの別作品の円環少女は読んだことないけど存在だけは知ってたんだけどね、この作品を読んでいないのは結構な損失だった。
ラノベ好きな人ならずSF好きも、なんならこの手のジャンルは全然読まないって人にも全然おすすめできる。マジでおもしろい。
スニーカー大賞金賞で、これだけのクオリティの作品なのになんでそれほど有名じゃないんだろこれ。そんなに知名度ないよね?わたしが知らないだけ?
うーん、ラノベ界大したもんなだなぁ。わたしが知らないだけでまだまだレベルの高い作品はいくらでもあるんだろうな。奥深いわ。
あらすじ。amazonより。
青く深く広がる空に、輝く白い雲。波打つ緑の草原。大地に突き立つ幾多の廃宇宙戦艦。
―千年におよぶ星間戦争のさなか、敵が必死になって守る謎の惑星に、ひとり降下したヴァロアは、そこで、敵のロボット兵ガダルバと少女マリアに出会った。
いつしか調査に倦み、二人と暮らす牧歌的な生活に慣れた頃、彼はその星と少女に秘められた恐ろしい真実に気づいた!新鋭が描く胸打つSFロマン。第6回スニーカー大賞金賞受賞作品。
一つの友情が生まれるまでの物語
作りこまれたSFの設定があって、登場人物も3人だけでなんかセカイ系でありがちな気もするけれど、この作品はそれとはむしろ真逆で登場人物である3人は別に世界を救ったりだとかするわけでもなんでもない。
あくまで二人の兵士が軸になっていて、戦争の行方なんてものは全く関係なくって二人の関係性こそがこの物語のすべてになっているんだよな。
本来であれば敵を殺すだけの存在で、身体の大半が機械になっていても、それでも彼らは人間でだからこそ彼らには友情が生まれたっていうただそれだけの物語なんだけど、それだけの物語が終始センチメンタリズムで非常に濃い。
なんつーんだろうな、別にドンパチするわけでもない。殴りあうことはあっても、でもそれは青春の一ページでしかない。ああ、そうだ、これって青春小説になるのかもしれない。SF設定を取っ払ったら完全な青春小説だなこれ。
これはただの二人の男が友情を育むだけの物語で、それがこの世界観で語られるからこそこの作品の良さってのがあるんだろうな。
自分の足で歩いて行くということ
この作品は二人の兵士が友となる、ただそれだけの物語ではあるんだけど、その背景には言われるがままの兵士から自分で考え自分の足で歩いて行く、人間を取り戻すまでの過程がある。
これって完全に現代社会にも当てはまることで、人ってのは本人たちが思っている以上に自分の考えってものを大事にしていなくって、社会の常識だとか誰かに言われたことだとか、多くの人がそれに従って生きている。
そういう意味では命令されるがまま相手を殺す兵士とその本質的には何も変わらなくって、だからこそ自分の足で歩いて行くという強い気持ちが必要なんだと思う。
この作品の言葉で、一つ引用したい言葉がある。
時間は流れている。「いつでもできるように思えること」をする機会は、本当は今しかないのだ。
この言葉を、そんなの当たり前じゃん、と笑い飛ばせる人がどれだけいるかなって。わたしはそう思えなかった。この言葉が心に重くのしかかってきた。
この言葉を当たり前だと心の底から思えるように、そう思えることができたならたぶん自分は人間らしく思うがまま生きることができてるんじゃないかなと思う。そうありたいと思う。
今この歳になってこの作品を読むことができてよかった
いわゆるジュブナイル作品、28歳になったわたしはこの作品を読むには少し歳を重ね過ぎていたかもしれないけど、でも今この歳になってこの作品を読むことができてよかったなーって思う。
例えば10代の頃に読んでいたらきっと受け取り方は間違いなく違っただろうし、今ほど響いたかはわからない。たぶん、響いたものがあったとしてもそれは別物なんだろうなとも思う。
登場人物の誰かが死んだりするわけでもないこの物語は、もしかしたら10代のころであったら物足りなく感じたのかもしれない。
この余韻は28歳になった自分だからこそのものだよ。だから、わたしはぜひとも自分と同世代の人に読んでもらいたいなと思う。30手前くらいの、もう若者とも言われなくなってきたそんな人たちに。
ということでぜひとも読んでほしい。それだけの本だよ、ホントに。
それではまたーねー。以上、あぽかる(@apokaru)でした。